東京高等裁判所 昭和55年(う)685号 判決 1980年8月06日
被告人 米川政邦
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人関谷信夫が提出した控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
控訴趣意第一点 事実誤認の主張について
一 所論は、要するに、原判決は、原判示第二の業務上過失傷害の訴因につき、被告人運転の普通乗用自動車と米川一雄(以下被害者ともいう。)運転の普通乗用自動車が離合しようとした際における被告人の注意義務として、「すみやかに前照灯の光が対向車の運転の障害とならないよう操作し、減速して道路左側に寄り、対向車との間隔を十分にとり、進路の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務がある」旨認定したうえ、被告人が右注意義務を怠つて「すみやかに前照灯を下向きにせず、漫然前示速度(時速六〇粁ないし七〇粁)で自車の右側部が、道路中央線付近に位置する状態で進行した過失により、同じく道路中央線寄りを進行して来た前示米川一雄運転の対向車に衝突の危険を感じさせ、急制動の措置をとらせたため、同車をして道路中央線上にはみ出させて、これに自車前部を衝突させ」た旨認定し、さらに「弁護人の主張に対する判断」の中で「本件事故の最大の原因は被害者が被告人車の前照灯に眩惑されて運転操作を誤つた点にある」としているのである。しかしながら、(一)被告人は、適切な時期に自車の前照灯を下向きに操作しているのであるから、被害者が被告人車の上向き前照灯に眩惑されたということはなく、また、(二)被告人車両は、自己の車線内を走行していたのであつて、道路中央線を越えたことは勿論のこと、自車の右側部分が道路中央線付近に位置する状態で走行したこともなく、さらに、(三)被告人車が原判示の速度で進行したことは、本件事故の発生となんらの関連性を有するものでもない。被害車両が被告人側車線に突如進出するに至つたのは、もつぱら、被害車両が指定制限速度を大幅に上廻る時速約八〇粁もの高速で、しかも、余りにも中央線寄りを走行していたため、被告人車両との衝突の危険を感じ、無謀にも急制動をかけた結果である。被告人は、本件事故に関しなんらの過失もないのであるから、被告人に対し前示の過失を認定して被告人を有罪とした原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある、というのである。
二 よつて、判断するに、原判示第二の事実に対応する原判決挙示の各証拠によれば、被告人は、原判示の日時頃、普通乗用自動車(ニツサン・ローレル)を運転し、原判示の道路(国道六号線)を水戸市方面から石岡市方面に向け、前照灯を上向きにして、道路中央線から約五〇糎の間隔をおいた自車線寄りを、時速約六〇粁ないし七〇粁で進行していたが、一方米川一雄も普通乗用自動車(トヨタ・クラウン)を運転し、右同所付近の道路中央線から約五〇糎の間隔をおいた自車線寄りを、同じく前照灯を上向きにして、被告人車と対向し時速約八〇粁で進行してきたこと、同所付近の道路状況は、道路両側の路側帯部分を除いた車道幅員が約一〇・九米で、その中央には実線で道路中央線が引かれている平坦・乾燥したコンクリート舗装の道路が被告人側から見て緩やかに右カーブをなし、道路両側には殆んど照明施設もない非市街地で、当時は深夜で右両車両のほか人車の交通はなく、同道路の制限速度は毎時五〇粁と指定されていたこと、右の道路を被告人及び被害者の各車両が共に対向して進行し、その間隔が約一八九米に至つた際、互いに相手車両の存在を認め、被害者は前照灯を下向きに切り換えたが、被告人はなおも上向きの状態で、両車は更にそのまま進行してその間隔が約一〇八米の付近(両車間の道路はほぼ直線に近い状況)にまで接近したとき、被告人は前照灯を下向きにし、他方被害者は被告人車との衝突の危険を感じ急制動をかけたが、被告人車が約五二米、被害車両が約五六・三米それぞれ進行した地点で、被害車両が路面をスリツプして被告人側車線に急角度で進出したため、被告人車の前部右側付近と被害車両の前部左寄り付近が衝突し、被告人車に同乗していた額川弘及び佐藤元一の両名が原判示の各傷害を負うに至つたことがいずれも明らかに認められる。
三1 そこで、まず所論(一)の被害者が被告人車の前照灯により眩惑されたか否かの点についてみると、被害者米川一雄は、原審における証言及び検察官に対する供述調書中において、被告人車両と対進して接近した際、急に被告人車の前照灯の光が目に入り、一瞬目が見えなくなつたため、衝突の危険を感じて急制動をかけた旨明確に供述しているところ、同人が眩惑されたとして本件現場において指示した地点からその時の被告人車までの距離は計測の結果約一〇八米であつて、前照灯を上向きにした場合の標準照射距離にほぼ合致する合理的なものであるばかりでなく、同人の右各供述は、いずれも自然で何らの作為もうかがわれず、信憑性に疑いを容れるような事情は見出すことができない。右の供述は優に信用することができるものというべきである。所論は、被害者が原審証人として「被告人車の前照灯が近目であつたか遠目であつたか判らなかつた」旨証言している点をとらえて、仮に同人が眩惑される程であるなら、対向車の前照灯が遠目であつたことが判らない筈はないから、これが判らなかつたとすることは、とりもなおさず、被害者が眩惑されていなかつたということの証左であり、したがつて、同人が眩惑されたとする証言部分は信用性がない旨の主張をするけれども、そもそも夜間対向車と短時間内に離合する際、その前照灯が上向きであるか否かは、経験則上必ずしも明確に判断しえないというべきところ、本件の場合、被害者が前方約一八九米付近に対進してくる被告人車を発見してから、右眩惑されたとする地点(前方約一〇八米)に達するまでには、計算上僅か二秒程度の時間的余裕しかなかつたのであるから、同人がその間に右の判断をなしえなかつたとしても、あながち不自然ではなく、しかも、被害者は原審第二回公判当時前照灯の照射距離が近目のときで一〇〇米である旨誤解していたことが、同人の原審第二、三回証言により明らかである。同人が所論のような証言をなしているからといつて、ただちにその信用性を否定する理由とはなりえない。また、所論は、被害車両が急制動を開始した地点から衝突地点までの五六・三米を走行するのに要する時間は、佐藤千之助作成の鑑定書によれば約三・三二秒であるから、被告人車の時速を六〇粁ないし七〇粁とすれば、右急制動を開始した時点における被害車両と被告人車両との間の距離は、計算上一一一・四六米ないし一二〇・六九米もあつたことになり、右の距離からすれば、被害者が被告人車の前照灯に眩惑されるということはありえなかつた筈であるというが、右鑑定書記載の三・三二秒という数値じたいが、スリツプ痕の長さその他不確定要素を含む事実関係を前提にして算出された概数にすぎないのであるから、これをもつて、右両車間の距離を一〇八米とする前記二の認定を否定する理由とするのは相当でないうえ、既にみたとおり、被害者が現に被告人車の前照灯によつて眩惑されていることは否定しえないところであり、これに上向き前照灯の標準的照射距離が約一〇〇米であることをも勘案すれば、右の約一〇八米という距離は合理性を有し、充分信用に値するものということができる。被告人が被害車両と約一〇八米の距離に接近して始めて前照灯を下向きに切り換えた措置は、右の距離がほぼ上向き前照灯の照射距離に近く、しかも被害者が現にその直前に被告人車の上向き前照灯により眩惑されている以上、切り換え時の厳密な距離的数値は確定できないにしても、もはや遅きに失する不適切なものであつたといわなければならない(なお、被害者の右眩惑が被告人車の上向き前照灯を原因とすることは、これが下向きの場合における標準的照射距離及びその照射方向に徴して明らかといえる。)。
2 つぎに所論(二)の被告人車の走行位置についてみると、被告人が被害車両を前方約一八九米の地点に始めて発見した際における被告人車の走行位置が、道路中央線から約五〇糎の間隔を置いた左側であることは、既に前記二において認定したとおりであり、被告人自身当初より一貫してこれを認めているところ、被告人及び被害者の捜査・公判段階における各供述証拠その他関係証拠によれば、被告人車はその後も右の位置を維持して走行し、前記前照灯を下向きにした地点及び本件衝突地点のいずれにおいてもほぼ同様の走行状態で自車線内を進行していたものと認めるのが相当である。原判決は、右の各地点において、少なくとも被告人車の右側部分が道路中央線と接する程度の位置・状態で進行していた旨認定し、その根拠として、被害車両が印したと思われる衝突現場の数個のタイヤ痕を手がかりに、衝突時における被害車両の位置・角度を算出して再現したうえ、両車の衝突部位との関連において被告人車の走行位置を認定している。たしかに、右の推論過程自体は事実認定の手法として合理性を有し、被害車両がこれに近い位置・角度で衝突したであろうことは推認するに難くない(所論は、原判決が道路中央線から被害車両の左前輪のタイヤ痕<イ>まで四五糎あるとした認定を誤りであるというが、右認定が正当であることは、司法警察員作成の昭和五二年二月二三日付実況見分調書及び原審証人張替喜七朗の供述に徴し明らかである。)。しかし、右のようにして得られた被害車両の位置・角度がある程度の幅の誤差を伴つた概括的なものであることは、事柄の性質上これを否定することができず、また、右実況見分調書添付の写真一〇枚目、一一枚目により認められる被害車両の破損状況や同写真一三枚目以下及び同見取図に認められる被告人車の破損状況及び同車の前部右寄り付近から漏出したと思われるラジエター水や油の路上痕等に照らせば、両車の衝突位置が道路中央線より若干被告人側車線内に入つた付近と認定することも充分可能であるうえ、そもそも進路前方約一八九米の地点で、被害車両が道路中央線寄りを対進してくるのを既に認識している被告人が、左寄りに進路を変更するのならいざ知らず、ことさら危険な道路中央線寄りに走行位置を変えるということは、通常考えられないところである。結局、原判決の挙示する対応証拠にその他関係各証拠を併せて検討しても、被告人車が道路中央線にその右側部分を接する状態で進行していたことを認めるには未だ合理的な疑いがあり、被告人車は、前照灯を下向きにした時点及び本件衝突の時点のいずれの際にも、道路中央線から約五〇糎位隔てた左寄り付近の自車線内を走行していたものと認めるのが相当である。被告人車が自車線内を走行していた旨の所論は、右認定の限度内において正当である。以上の認定に反する原審証人額川弘の供述は、同人の司法警察員に対する供述調書に照らし措信できず、また、司法警察員作成の実況見分調書(二通)中被告人車の右各時点における走行位置に関する記載部分も以上の認定に徴し措信することができない。なお、被害者が被告人車の前照灯に眩惑された時点における、被害車両の走行位置は、同車のそれまでの走行位置及び急制動時のスリツプ痕の位置に徴し、道路中央線から約五〇糎位自己の車線側に入つた付近とみるのが相当である。
3 さらに、所論(三)の被告人車の速度に関する被害者の認識についてみると、被害者が被告人車の前照灯により眩惑された際、被告人車の速度がどの程度であつたかの点につき、同人は、原審証人として「ちよつと分りません。」と述べているが、同証言の趣旨は、関係証拠と対比してみると、被告人車の速度がどの程度か全く判らなかつたといつているのではなく、単に同車の正確な速度については判らなかつたと述べているに過ぎないものと解せられ、後記のとおり、被害者は、被告人車両がむしろかなりの高速で進行していたことを充分認識していたものと認めるのが相当である。けだし、被害者は、進路前方約一八九米付近に初めて被告人車を発見してから、その前照灯に眩惑されるまでの約二秒位の間に、同車と約一〇八米の距離にまで自車を走行接近させているのであるから、自動車運転者として、被告人車の速度の正確な数値はともかく、同車がある程度の高速で対進してくることは、容易に認識できたものと推認することができるからである。原判決が被告人の過失行為の一つとして「漫然前示速度で」進行した旨判示しているところも、被害者の認識との関係で右の速度が同人に衝突の危険を感じさせ、急制動の措置をとらせるに至つた原因の一つになつていることを説示した趣旨であると理解するのが相当である。
対向車間の離合の際における注意義務が問題となつている本件において、被告人の過失の存否・内容を判断するうえで、被告人車の速度及びこれに対する被害者の認識の有無・程度は、もとより確定を要する事実と解されるが、事柄の性質及び当時の状況に鑑み、被告人車の速度に対する本件被害者の認識の認定としては、右の程度で足りるものと解せられる。
四 以上認定の事実関係をもとに、被告人の注意義務の存否・内容を検討すると、本件事故時の状況は、要するに、被告人車両が時速六〇粁ないし七〇粁で被害車両が時速八〇粁で、共に自車の右側部分が本件道路の中央線から約五〇糎位自車線側(左側)に寄つた付近を対進して走行し、両車間の距離が約一〇八米位に至つた際、被害者が被告人車の上向き前照灯に眩惑されて急制動の操作をしたため、両車の離合直前に、被害車両が右同様道路中央線寄りを進行していた被告人車の前面に急角度で進出し、両車が衝突するに至つたというものである。本件事故の直接の原因が被害者の急制動措置にあることは明らかである。
そこで、問題は、被害者が右急制動をかけ、本件事故が発生するに至つたことについて、被告人に過失責任があるか否かであるが、被告人に対しこれを肯定するためには、被告人の本件のような運転状況から、右の結果発生が一般的に予見可能な場合でなければならない。
本件の場合、まず、被告人の灯火の切り換え操作が時期を失した不適切なものであつたことは、既にみたとおりであるから、被告人車の上向き前照灯によつて、被害者が眩惑されるおそれのあつたことは、一般的に充分予見することが可能であつたということができ、したがつて、本件被害者を眩惑状態に陥らせた責任が被告人にあることは明らかである。
つぎに、自動車運転者が右のように眩惑状態に陥つた場合、本件被害者がなしたように、直ちに急制動をかけることが一般的に予見可能であるかどうかであるが、右の場合、これに対する被害者の運転方法として通常考えられるところは、直ちに減速すると共に進路を左寄りに変え(本件道路の片側幅員は約五・四五米である。)、被告人車との間隔を保つて進行することである。しかしながら、右の措置は、自動車運転者が適切に運転操作をなす場合のことであつて、本件被害者のようにかかる措置をとることなく、直ちに急制動の措置にでることも、一般的にみて充分に予見することが可能であつたものというべきである。けだし、道路交通法五二条二項が、一定の場合に自動車運転者に対して灯火の操作を義務づけているゆえんは、眩惑状態下における対向自動車の運転者が一時的に視力を喪失した場合、運転操作を誤り交通事故を発生せしめる危険性が極めて高いと予想されるためであると解すべきところ、本件の場合、被告人車両及び被害車両は、共に道路中央線に近接し、かつ、指定制限速度を上回るかなりの高速で対向接近していたのであるから、かかる状況下で、被害者が被告人車の前照灯に照射されて眩惑状態に陥つた場合、同人が衝突の危険を感じ、狼狽のあまり、前記のような適切な措置をとらず、直ちに急制動の措置に出るということは、なお一層容易に予想しうるからである。所論は、被害者が急制動をかけたのは、被害車両の速度(時速八〇粁)及び走行位置(中央線寄り)から、運転未熟の同人が狼狽のあまり誤つてなしたものであつて、被告人に過失責任はない、というが、右所論の採用しえないことは、以上詳細に述べてきたところから明らかというべきである。また、所論は、被害車両が衝突直前に突如被告人側車線内に進出したのは、被害車両の制動装置が片効きであつたためか、または被害者の運転操作の誤りによるものであるから、本件事故は被告人の責任ではない、ともいうが、被害車両の制動装置が片効きでなかつたことは、原審証人久保田和行の供述及び司法警察員作成の昭和五二年二月二三日付実況見分調書に徴し明らかであるのみならず、急制動操作により車輪の回転が停止した状況下の運転者は、通常運転制禦能力を失つているものとみるべきであり、したがつて、被害者が急制動をかけたのちにおける本件被害車両の一連の動きは、自然的因果の流れに過ぎないものであるから、いやしくも被害者に急制動の措置をとらせるに至つたことについて被告人に過失が認められる以上、被告人は本件の結果発生について過失責任を免れない筋合いであるといわなければならない(もつとも、以上みてきたところでも明らかなとおり、被害者の運転方法にも、走行速度、走行位置、急制動措置等に不適切な点が存在することは否定しえないが、右は、同人自身の過失責任として考慮されるべき事柄であつて、被告人の過失の成否になんらの消長をきたすものではない。)
五 以上の次第であるから、被告人が、本件現場で被害車両と離合しようとするに際し、原判示のとおりの注意義務を怠り、同車と前方約一〇八米に対向接近するに至るまで前照灯を下向きにせず、道路中央線寄りを指定制限速度毎時五〇粁を上廻る高速で進行した点で、被告人に本件事故発生の過失責任があることは明らかというべきである。なお、原判決には、前記三の2で認定したとおり、被告人車の走行位置に関し、事実の誤認があるといわなければならないが、右の誤認は、被告人車の右側部分が道路中央線付近に位置していたか、それより五〇糎位左側であつたかの差異に過ぎず、本件の場合、被告人の過失の成否に何らの影響を及ぼすものではない。
原判決には、判決に影響を及ぼすべき事実の誤認はなく、論旨は理由がない。
控訴趣意第二点 量刑不当の主張について
原審記録を精査して、原判決の量刑の当否について検討すると、被告人は、昭和四九年六月に業務上過失傷害罪で罰金三万円に処せられたほか、昭和五一年一一月には傷害罪、道路交通法違反の罪(速度違反、追越違反)で懲役一〇月保護観察付執行猶予四年の刑に処せられ、厳に自戒すべき身であつたにもかかわらず、その僅か三か月後に原判示第一のとおり無免許で同第二のとおり無謀な運転をなして対向車と正面衝突する事故を惹起し、自車に同乗中の二名の者に対し原判示の各傷害を負わせたほか、その三か月後には、またもや反省の色もなく、原判示第三ないし第五のとおりの無免許運転、踏切直前での一時不停止、道路右側部分へのはみ出し運転の各罪を犯すに至つているのである。被告人の法規範無視の態度は甚だしいものがあり、犯情は極めて悪質といわなければならない。
してみると、本件業務上過失傷害罪については、対向車両の米川一雄の運転操作にも不適切な点がみられること、傷害を受けた者がいずれも被告人車のいわゆる好意同乗者であつて、被害感情も悪くないことなど所論指摘の諸事情にその他記録上被告人のため斟酌しうる有利な情状を充分に考慮しても、被告人を懲役八月に処した原判決の量刑は相当であつて、その刑期を減じまたは罰金刑をもつて処断するだけの事由があるとは考えられない。論旨は理由がない。なお、原判決は、判示第二の事実に関する法令の適用として、刑法五四条一項前段、一〇条を遺脱しているが、右誤りは、判決に影響を及ぼすものではない。
よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 小松正富 苦田文一 宮嶋英世)